工事契約に関する会計基準

 これまで我が国では、長期請負工事に関する収益の計上については、工事進行基準又は工事完成基準のいずれかを選択適用することができるとされてきた(企業会計原則注解 (7))。このため、同じような請負工事契約であっても、企業の選択により異なる収益等の認識基準が適用される結果、財務諸表間の比較可能性が損なわれる場合があるとの指摘がなされていた。こうした指摘を踏まえ、当委員会においては、初期の段階から、工事契約に関する収益認識の方法が中長期的な検討課題として認識されてきた。その後、四半期財務報告制度が導入されるなど、より適時な財務情報の提供への関心が高まり、この面からも工事契約に関する収益認識の方法について見直しの必要性が指摘されていた。

 従来、工事進行基準と工事完成基準の選択適用が認められていた結果、同様の請負工事契約に関して適用される収益の認識基準が企業の選択により異なる可能性があった。本会計基準はそのような可能性を排除して、工事契約ごとに会社が適用すべき認識基準を明らかにすることとした。そのため、本会計基準は、仕事の完成に対して対価が支払われる請負契約のうち、基本的な仕様や作業内容を顧客の指図に基づいて行う工事契約を適用範囲としている。このため、請負契約ではあっても専らサービスの提供を目的とする契約や、外形上は工事契約に類似する契約であっても、工事に係る労働サービスの提供そのものを目的とするような契約に関しては、本会計基準は適用されないことに留意する必要がある。本会計基準の適用範囲となる工事契約は、当事者間で既に合意されたものを指し、交渉中のものやそれ以前の段階のものは含まれない。

 

 収益の認識に関しては、一般に、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものを対象とすることとされている(企業会計原則 第二 3B、同注解 (6))。しかし、長期の未完成請負工事等については、工事が完成し、その引渡しが完了した日に工事収益の認識を行う方法(工事完成基準)とともに、工事の完成・引渡しより前の時点においても、決算期末に工事進行程度を見積り、適正な工事収益率によって合理的な収益を見積って工事収益の認識を行う方法(工事進行基準)が認められてきた(企業会計原則 第二 3B ただし書き、同注解 (7))。当委員会は、どのような場合に、どのような時点で収益認識を行うのが適切であるかを検討する上で、このような従来の取扱いの背景にある考え方を確認する必要があると考えた。

 財務報告の目的は、財務諸表の利用者が不確実な将来の成果である企業の将来キャッシュ・フローの予測、ひいては企業価値の評価に役立つ財務情報を提供することにあると考えられる。このためには、企業が資金をどのように投資し、投資にあたって期待された成果に対して実際にどれだけ成果を上げているかについての情報を提供することが重要である。すなわち、実績としての成果は、投資にあたって事前に期待されていた成果が事実となったと認められる時点で把握されることになる。

 一般に、商品等の販売又は役務の給付によって実現した段階で収益を認識するという企業会計原則の考え方も、収益はこのように成果の確実性が得られた段階で認識すべきであるとの考え方に基づいているものと解される。

 供給者側が契約上の義務をすべて履行した段階では、通常、成果の確実性が認められる。具体的には、物の引渡しを目的とする売買契約においては引渡しを行った時点、工事の完成と完成した物の引渡しを目的とする請負工事契約においては完成・引渡しを行った時点がこれに相当する。しかし、企業会計原則において、長期の請負工事に関して工事完成基準のほか工事進行基準が認められているのは、このような取引については、一定の条件が整えば当該工事の進捗に応じて対応する部分の成果の確実性が認められる場合があるためと考えられる。すなわち、当事者間で基本的な仕様や作業内容が合意された工事契約について、施工者がその契約上の義務のすべてを果たし終えておらず、法的には対価に対する請求権を未だ獲得していない状態であっても、会計上はこれと同視し得る程度に成果の確実性が高まり、収益として認識することが適切な場合があるためと考えられる。同じ長期の請負工事であっても、例えば、その工事に必要とされる技術が確立されていて完成の確実性が高い状況と、そうでない状況とでは、適用すべき収益の認識基準は必ずしも同一ではないと考えられる。このため、当委員会は、前述の一定の条件が何であるかについての検討を行った。

 検討の過程では、当委員会が平成18 12 月に公表した討議資料「財務会計の概念フレームワーク」(以下「討議資料」という。)も参照した。討議資料では、収益及び費用は、投下資金が投資のリスクから解放された時点で把握されるとされている。投資のリスクとは、投資の成果の不確定性を意味し、投資にあたって期待された成果が事実となれば、それはリスクから解放されることになるとされている。このように、収益や費用は、投資にあたって期待された成果に対比される事実が生じ、投資がリスクから解放された時点で把握される。工事契約による事業活動は、工事の遂行を通じて成果に結び付けることが期待されている投資であり、そのような事業活動を通じて、投資のリスクから解放されることになる。そして、当委員会において検討すべき点は、工事契約に係る事業活動に投下した資金は、どのような条件があれば、投資のリスクから解放されることになるのかという問題であると整理された。37 項でも述べたように、成果の確実性が得られた時点、すなわち投資のリスクから解放された時点で収益及び費用を把握するという考え方の背景には、投資家は、投資にあたって期待された成果に対して実際にどれだけの成果が得られたのかについての情報を求めているとの理解がある。

 

「工事進行基準」とは、工事契約に関して、工事収益総額、工事原価総額及び決算日における工事進捗度を合理的に見積り、これに応じて当期の工事収益及び工事原価を認識する方法をいう。

「工事完成基準」とは、工事契約に関して、工事が完成し、目的物の引渡しを行った時点で、工事収益及び工事原価を認識する方法をいう。

 

工事契約に係る認識基準

 工事契約に関して、工事の進行途上においても、その進捗部分について成果の確実性が認められる場合には工事進行基準を適用し、この要件を満たさない場合には工事完成基準を適用する。

 

 成果の確実性が認められるためには、次の各要素について、信頼性をもって見積ることができなければならない。

 

(1) 工事収益総額

(2) 工事原価総額

(3) 決算日における工事進捗度

 

 工事契約を履行することによって、最終的に損失が発生すると見込まれることがある。このような場合、我が国においては、発生の可能性が高い損失に対して引当金を計上する実務が相当程度行われてきている。また、国際的な会計基準においても、このような場合には、当該工事契約から発生すると見込まれる損失について、見込まれた期の損失として処理することが求められている。

 

 正常な利益を獲得することを目的とする企業行動において、投資額を回収できないような事態が生じた場合には、将来に損失を繰り延べないための会計処理が求められている。有価証券や固定資産の減損処理、通常の販売目的で保有する棚卸資産の簿価切下げ等がこれに当たり、財務諸表利用者に有用な情報を提供することができるものと考えられてきた。工事契約において損失が見込まれる場合に、当該損失を見込まれた期の損失として計上する会計処理も、そのような事態において、将来に損失を繰り延べないために行われる会計処理であると考えられる。

 

 当委員会は、工事損失の発生が見込まれる場合において上述のような引当金を計上する会計処理について改めて検討した。すなわち、このような場合に引当金計上のための要件を満たすか否かという点である。企業会計原則注解 (18)は、次の要件をすべて満たす場合に、当期の負担に属する金額を引当金に繰り入れ、費用又は損失として計上することとしている。

 

(1) 将来の特定の費用又は損失であること

(2) その発生が当期以前の事象に起因すること

(3) 発生の可能性が高いこと

(4) その金額を合理的に見積ることができること

 

 企業会計原則注解 (18)は、将来の特定の費用に加え、将来の特定の損失についても引当金の計上を求めており、その例として、債務保証損失引当金や損害補償損失引当金が挙げられている。このような特定の損失の引当金については、将来の発生が見込まれる損失の全額について、発生が見込まれた期の負担に属する金額として、引当金の計上が行われている。工事契約から将来発生が見込まれる損失についても、引当金計上の要件を満たせば、同様の処理が必要になると考えられる。特定の工事契約の履行により発生すると見込まれる損失は将来の特定の損失に当たるが、そのような損失が発生すると見込まれることになる原因は様々である。しかし、いずれの原因による場合であっても、過去の事象に起因するものと考えることができる。例えば、工事契約の締結以後に生じた施工者に起因する設計変更や、工事の進捗遅延による経費の増加、想定外の資材価格の高騰等、そのいずれもが過去の事象に起因するものである。さらに、工事契約を締結した当初から損失が見込まれるような場合であっても、損失の発生はそのような工事契約を締結したという過去の事象に起因していると考えることができる。

 このため、工事損失の発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、工事契約の全体から見込まれる工事損失(販売直接経費を含む。)から、当該工事契約に関して既に計上された損益の額を控除した残額(すなわち、当該工事契約に関して、今後見込まれる損失の額)について、工事損失引当金を計上することとした。


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